RobbinⅡ-レイン計画- 第七章(2)
本郷は個人的にはこの事件を追ってみたい気はあったが、今はそれ
どころではなかった。こちらの方は、当事者には悪いがまだ被害が発
生したわけでは無いのだ。このところ都内では、過激派の犯行と思わ
れる爆弾騒ぎが異常に多く、猫の手も借りたいほどの忙しさだったの
である。口の悪い同僚の沼尾刑事が「過激派が一致団結でもしたの
か」と悪態をついたぐらいで、ほとんど無差別テロに近い感さえあった。
派出所に爆弾が投げ入れられるのはまだ程度が軽い方で、公団住
宅が爆破され大勢の死傷者を出したのは記憶に新しい。新興の過激
派らしき「聖なる鳥」と名乗る一味が犯行声明を出しているのだが、そ
の正体は全く掴めていなかった。
そしてそれから数日後、今度はよりによって深夜挙動不審で任意同
行を求められた若い男が、警官と揉み合ううちに所持していた拳銃を
奪って警官を射殺し、逃亡するという事件が起こった。本郷も他に幾つ
か捜査中の事件もあったのだが、今回の捜査に主として当たるように
村上警部補から言われ、しぶしぶそれに従った。
現場の周辺を坂上刑事と聞き込みにあたっていた本郷は、その場所
が先の不思議な出来事の起こっているアパートの近くである事に気付
いた。その件は坂上も聞き及んで知っていたので、昼食を取りながら
休憩した喫茶店で、周りに聞かれぬように注意を払いながら、自然と
二人の話はその出来事に及んだ。
「誰か居るのは間違いないわけだが、どうしてそこまでする必要がある
のかな。必要以上に不気味な存在をアピールしてるみたいに感じるん
だが」
「でも状況から考えて、いつも誰かがその部屋に居るとは限らんでしょ
う。皆が始終起きて交代で見張っているわけでもないでしょうから、特
に人が寝静まった明け方なんかに、こっそり出入りしてる可能性が高
いんじゃないですか」
「だがドアチェーンがかかってたっていう事は、内部に人が居るって事
になるんだぞ。雨戸だって閉め切ったままだ。警官と大家に踏み込ま
れた時、その何とかって贋学生はどうやって逃げ出したんだ。天井裏
から屋根に登って逃れた、とでも言うのか。ここまで大騒ぎになりゃあ、
住人全員がその部屋を注意して見張ってるようなもんだぜ。下手に逃
げ出そうもんなら、すぐに誰かが異変に気付くだろうさ」
「一種の密室ってことですか」
「そう。推理小説でよくある、密室から忽然と人が消える、ってパターン
だな。トリックは色々とあるが、あまり必然性がないものが多いね。推
理小説の性格上、物語を面白くして謎めかそうとして、無理矢理に作
り出したって感じだな。ま、今回がどうなのかはまだわからんが」
「内部に人が居るように見せかける事は可能でしょうかね」
「どうかな。夜中も音楽を付けっ放し、ってことが引っ掛かってるんだろう」
「ええ。あまりにもわざとらしいとは思いませんか?」
「たしかにな。部屋の中で何をしてるのかは知らんが、普通はどちらか
と言えば出来るだけ目立たないようにするものな」
「居る事を強調してるってことは、裏返せばひょっとしたら誰も居ないん
じゃないかと……」
「なるほど。じゃあ、ラジオか何かは知らんが、その音源はどうやって始
末するんだ。踏み込んだ時にはそれらしいものは何も無かったんだろう。
あったら目立つだろうし、必ずその事を何か言う筈だ。たまたまその時
持ち出してて無かった、っていう偶然が二度続くのか」
「そうですねえ……」
「ま、今はそれより今回の事件を解決するのが先だ。そっちの方は、実
際に何か事件として発生してから動かないと、我々の身体が幾つ有っ
ても足りないぜ。当面は担当の派出所に任せておいた方がいいだろう
と思うがな」
喫茶店を出た二人は、再び現場周辺の聞き込みに回ろうとして、二手
に別れようとした。その時、昼下がりの静けさを破る大音響と共に、少し
離れた所から白煙が上がった。
「な、何だ」
「行ってみましょう」

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