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2009年7月15日 (水)

Robbin - コドモノチカラ - (5)

 岩田美咲は高木のその問いにはすぐには答えず、その瞳を熱っぽく
見つめながら、すり寄るように横にやって来た。彼女の付けた香水の
わずかな香りが、周辺の空気の流れとともに高木の鼻腔をくすぐる。
 彼女は不意にブラウスの前をはだけた。紺のブラウスの下はノーブ
ラで、両の乳房が高木の顔のすぐ近くで、突起したピンク色の乳首を
見せた。高木もごく自然に、目の前のその乳首を吸う。美咲の熱い吐
息がすぐ近くで聞こえた。彼女がいつも下着を一切付けていないこと
は知っている。白いミニスカートの下から手を差し入れると、そこは異
常なくらいに濡れていた。

 高木は我慢できなくなって、美咲を自分のテーブルに荒々しくうつぶ
せに押し付け、硬くなった自分のものをバックから、美咲に挿入した。
それはまるで、柔らかな熟れた桃にほんの少し力を加えてへこませる
ぐらいに造作もないことだった。彼女が声を立てまいと、自分の左手を
口に入れて我慢している苦悶の表情が、高木の興奮をさらに大きくす
る。美咲の荒い息遣いの中に、押し殺した嗚咽にも似た声がわずかに
聞こえる。激しい動きが伝わり、テーブルの上に直置きした茶色のヴィ
スコンティの万年筆が、カタカタと揺れて小さく音を立てている。
「美咲!」
 それが高木が達する時の合図だった。昼間のオフィスでの久しぶりの
束の間のセックスは、激しく、だがあっという間に終わってしまった。美
咲にとってはあまりにも物足りないものの、今はそれ以上は我慢するし
かなかった。また夜にでも解消すればいいことだった。終わった後の高
木のものを彼女の口と舌で舐めてきれいにするのが、いつもの決まりだ
った。荒い息を整えながら、二人はふたたび何事もなかったかのように、
社長と秘書の関係に戻っていた。

「先ほどのテレビ局にすら情報が漏れているとなれば、臓器移植にやた
ら敏感になっている昨今の厚生省は、黙って放ってはおかないと思いま
す」
「……」
 高木は思案していた。たしかに来週インドに海外出張し、現地のバイ
ヤーと商談をまとめてくるつもりでいるのは事実だが、どうして自分がイ
ンドに行く情報が外部にリークされたのかが謎だった。社内のかなり限
られたメンバーしか知らないはずなのに、これでは運営会議の際にも迂
闊に発言できなくなってくる。
「俺が来週インドに出張する予定を、誰が知ってる」
「はい、社長ご自身と私以外には、運営会のメンバー十二名のみかと」
「その中にスパイがいる可能性があるな」
「スパイ、ですか」
「おおかた、マスコミに情報リークすると、幾らかの小遣い稼ぎになるん
だろう」
「でも運営会議では、社長のスケジュールは話さないわけにはいきませ
ん」
「そうだな、しかし今後は発言にも注意しないとまずいかもな」
「はい。で、宮嶋局長とはどうされますか」
「まあ、会わない理由はないな。直近だと、時間はいつ取れる」
「ちょっとお待ちください」
 美咲はいったん部屋から出て行くと、すぐにスケジュール帳を手に戻っ
てきた。
「明日の夜、八時以降でしたら空いてます。でも場所はどうされますか」
「内密で会える場所、か」
「はい。どこか個室の取れるレストランを探して、手配しておきましょうか」
「そうだな、食事の名目があった方がいい。万が一誰かに顔を見られても、
偶然居合わせただけと言い訳できる」
「わかりました、では早速に」
 そう言うと、彼女は一礼をして退室した。とても先ほど高木を挑発してき
た女と同一人物とは思えない。だが高木本人はそのギャップが気に入っ
ていたりもするのだ。テーブルの上に置いてある、メンソール系の清涼剤
を数個口に含むと、高木はふたたびテーブルの上の英文書類に目を落と
し、先ほどの続きからを読み始めた。

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2009年7月 4日 (土)

Robbin - コドモノチカラ - (4)

「別に、罪悪感などありませんよ」
 高木壮一郎は、女性レポーターのインタビューに、毅然としてそう
答えた。
「後ろめたいことをしているわけじゃない。社会奉仕の一種ですよ」
 今や、高木壮一郎が率いる高木グループは、医療法人をベース
にした世界的な総合企業となっていた。この男の一挙手一投足に
世間の注目が集まっており、時代の寵児ともいえる存在である。
「この世界中で、臓器移植のおかげで命を救われた人はたくさんい
ますよ。自分の死をすぐそこに意識しなくてもいい健康な人たちは、
臓器移植は罪悪だと言うのかもしれない。でもね、自分や自分の愛
する人が死に瀕していて、臓器移植という手段が残されているのな
ら、そんなに簡単に生をあきらめることができると思いますか」
 高木壮一郎は熱く語り始めた。両手でオーバーアクションを取りな
がら熱弁をふるうたび、そのダイヤをちりばめた左手首のロレックス
が妖しく光る。話し相手のうらやましげな視線が一瞬そちらに注が
れるのが、彼の優越感をくすぐる。

「みんな、死ぬわけにはいかないから、仕方がなく臓器移植を受け
るんです。その臓器移植のお手伝いを、私達はしているんです。た
しかに移植で使われるのは、もしかしたら万にひとつの可能性とし
て、おっしゃるように元は臓器売買による臓器だった可能性がある
のかもしれない。だが我々は、闇の組織を相手にしてるわけじゃあ
りません。この商売は信用を失くしたら成り立たないですからね。正
当なものであるという確証のもと、この国際ビジネスを行っています」
「臓器の入手元はどのあたりからですか」
「それは企業秘密です。ノーコメント」
「海外での臓器移植を希望される人に、高額で斡旋しているという
噂を聞きますが」
「根も葉もないうわさ話でしょう、馬鹿馬鹿しい」
「来週インドに海外出張される、という噂をうかがっていますが」
「さあ、知りませんね。それが、何か」
「臓器、特に腎臓の買い付けではないかと」
「失敬な!」
 それ以降、高木は一言も喋らなくなった。明らかに気分を害している
のがわかり、カメラがいったん止められた。女性レポーターは困り果て
て、横のプロデューサーを救いを求めるような目で見つめた。
「申し訳ありません、ご気分を害されてしまわれましたでしょうか」
「当たり前でしょう。こんな内容を放送するんですか」
「ええ、まあ…最近の医療事情という特集の一環なもので」
「臓器買い付けなどという表現は、イメージ悪化につながる。気を付け
てもらわないと困るね。お宅の放送局に、正式に抗議文を送ってもい
いんだが」
「申し訳ありません。その部分は放送時には編集でカットさせてもらい
ます。ご安心ください」

 ドアがノックされ、秘書の女性が顔をのぞかせた。取材の時間は高木
が超多忙であることを理由に、わずか十分間しかもらえていなかったの
だ。
「申し訳ございません、次の予定が入っております。お引き取りいただ
けますでしょうか」
 彼らがしぶしぶ退室するのを見届けて、彼女は高木の傍にやって来
ると小声で言った。
「今しがた、厚生省の宮嶋局長が、内密で至急お目にかかりたいと」
 高木は、彼女の膝上ミニスカートからのぞく太ももあたりを一瞥した。
秘書でもあるが愛人でもある彼女と、最近はろくにプライベートに会う時
間さえ取れていない毎日なのだ。その太ももがやたらと色っぽく感じら
れ、彼のその衝動を刺激する。
「用件は何か言ってなかったのか」
「はい、特には何も。でもひょっとすると、来週のインド行きの件ではない
かと」
「どうしてそう思う」

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