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2009年3月 1日 (日)

バロンの夢 (3)

 フラッシュバックのように、牢屋と思しき光景がまだ少し脳裏に残っ
ている。時々見る光景なのだが、夢なのかどうかも定かではない。
もし夢だとすれば、悪夢の残りなのだろうが…

 次に私が覚醒した時には、廃墟と化した街が眼前に広がっていた。
私は建物の陰に隠れながら、その巨大な怪物と思しきものの右後方
の地面を移動していた。両手を見て、もうあの毛むくじゃらな動物のま
まではないことを知り、ホッと安堵する。やっと本来の姿に戻れたのだ
ろう。
 なぜか最近、自分の意思で空を飛ぶことが出来なくなっている。こ
の前もそうだった。あの時は落下する海面スレスレで、やっと飛べた
から良かったようなものの、そうでなければ今ごろあの世だ。私の仲
間は、もう一人の女性だ。彼女はちょうど私と反対側の位置から、そ
の巨大な怪物を見守っている。別に私たちは天使とかそういう部類
ではない、超能力で空が飛べるのだ。だから精神的なものや体調に
よって、発現される能力にその時その時でバラツキが出るのだ。
 やがて彼方から戦闘機が五機、けたたましい騒音とともにこちらに
向かって来た。私は嫌な予感がした。こういう時は、お決まりの爆弾
攻撃と決まっている。しかし奴の足もとには、この私達がいるのだ。
政府は私たちを見殺しにするとでもいうのだろうか。次の瞬間、不意
にすぐ近くで大爆発が起きた。もうもうとした煙と埃が舞い上がり、建
物の瓦礫が頭上から降り注ぐ。私がすぐ近くの瓦礫の下に逃げ込む
のと、あたりに瓦礫が散乱するのとがほぼ同時だった。数発がすぐ
近くで連続して爆発する。熱波でほとんど呼吸が出来ないくらいの
状況で、私は思わず左腕で口と鼻をおおい、目を閉じて瓦礫の陰で
じっとしていた。下手に動くと命取りだ。

 やがて、あたりが急に静かになった気がした。ゆっくりと目を開ける
と、そこには瓦礫の街の姿があった。だが目の間にあった、怪物の姿
がどこかに消えていた。攻撃で倒れたわけではなさそうだ。上から見
てみないことには、状況がわからない。私は自分が飛び立つ姿を、頭
の中に思い描いた。そして少し背伸びするように、軽く身体を上方に少
し動かした。だが、それだけだった。
『駄目だ、また…飛べない』
 こういうのをスランプとでも言うのだろうか。何度か試みても一向に飛
び立てるとは思えない。すでに彼女は斜め前方の空中に浮かんで、こ
ちらを心配そうに見つめている。気のせいか、彼女の表情がこわばって
いるようにも見えた。不意に、彼女が後方に飛び退くように離れた。私
はずっと、何度も飛び立とうと念じていた。やがて、身体が真上に浮き
あがった。
『ああ、よかった。やっと飛べた』
 だがそれは、いつもの感覚とは違っていた。私の意志ではなかったの
だ。彼女がいる前方に移動しようとしても、その場に止まったままでただ
上昇するだけだ。自分の自由にならないのが、はがゆい。
「オマエハ、何者ダ」
 不意に頭の中に、野太い声ががんがんに響く。
『誰だ、こいつ…』
 自分の意思とは関係なく、背負ったリュックを中心に、身体が回転して
後ろを向く。そいつは、そこにいた。何のことはない、私は自身の意思で
飛び立てていたのではなく、そいつに背負ったリュックを背後からつかん
でつままれて、持ち上げられていただけだったのだ。まるで龍のような顔
をしたそいつは、じっと私を見ていた。やがて何も言葉を発しない私に興
味を失ったのか、そいつは不意に私を瓦礫めがけて投げつけた。
 ぐるぐると回る景色と、急速に近づく瓦礫。こんなスピードで激突したら
即死だ。思わず私は、死を覚悟した。その瞬間、身体がふわりと宙に浮
いた。ふと気付くと、彼女がすぐ目の前にいた。
「大丈夫?」
 どうやら私は、すんでのところで飛べたようだ。
「ああ。なんとか」
 目の前のそいつは、身体を少し反らせると、不意に私たちめがけて炎を
吐きかけてきた。予想もしなかったまばゆい光に目がくらんだ。飛んでい
る時に周りの空間を歪ませているため、幸いにもそれがバリヤーの役目
を果たして、炎が目の前で反れてゆく。その強い熱気に思わずひるんで、
腕で顔を隠す。
 やがてそいつの吐き続ける炎に、少しずつ空間バリヤーが溶かされ、炎
が私に近付いてくる。そして次の瞬間、私はすでにそこにはいなかったの
だ。

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