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2008年5月 2日 (金)

RobbinⅡ-レイン計画- 第四章(7)

「え?ああ、いや、その何て言うか」
 その彼女は、くったくのない笑顔で津田に話しかけてきた。夏休みを
利用して、イスタンブールに観光に来ている女子大生のような雰囲気
だった。通りすがりで親切に声を掛けてくれたようだったので、無視す
るわけにもいかず、津田は正直に言った。
「トルコ語の通訳を探してるんだけど、全然見つからなくて」
「ああ、それで……」
 彼女は津田の隣りに座ってもいいかと尋ね、ベンチに腰を下ろした。
「お仕事か何かで来られたんですか」
「ええ、まあ。貴方は、こちらへは観光で?」
「いえ、観光じゃないんです」
「観光じゃない、じゃあ留学されてる学生さんなんですか」
「いえ。何て言うか……」
 明解な答えが返ってくると思っていただけに、彼女が口ごもったのが
津田には意外だった。だが様子からして、あまりその部分には触れて
欲しくないように感じられた津田は、すぐに話題をそらすことにした。
「領事館の方にも尋ねてみたんですが、以前ならそれらしい人間が一
人いたようなんですよ。でも今は該当者無しみたいで、諦めて引き上
げようかと思ってたところでしてね」
「通訳って、どんな通訳なんですか」
「トルコ語の堪能な日本人を探してたんです。結構、高望みしてるのか
も。もっとも、トルコ人に色々細かいニュアンスを尋ねてもらうことになる
から、日常会話が出来る程度じゃ話にならないんです」
「ふうん。内容はどんなことなんですか」
 津田はちょっと躊躇したが、引き上げるつもりでいたので、気軽に言
った。
「調査、なんですよ。プライベートな、ね」
「調査ですか」
 彼女はしばらく考えあぐねていた風だったが、やがて冗談っぽく笑顔
で言った。
「面白そうですね、もし私でよろしかったら、お手伝いしてさしあげます
けど」
「え?」
 津田はまさか彼女の口からそんな言葉が出るとは思っても見なかっ
たので、唖然として思わずしげしげと、真近の彼女の顔を見詰めてしま
った。
「あの、今、何と」
「ええ、私で良ければお手伝いする、と言いましたけど。私じゃ役不足
ですか」
「とんでもない!でも失礼ですが、トルコ語の方は大丈夫なんですか」
「人並み以上には喋れると思ってますけど、ご心配でしたらお試しにな
りますか」
「テレビのニュースとか、新聞は読んで理解出来ますか」
「特に不自由は感じてませんけど」
 彼女は笑顔で言った。津田は地獄に仏を見た思いだった。からかわれ
ているかも知れないのだが、今は彼女の言うことを信じてみるしかなか
った。
『騙されてるのかも知れんが、ま、いいか。他に手段は無いんだし』
 彼女は簡単に自己紹介をした。それによれば、彼女の名前は杉本弘
美と言い、イスタンブールに二年半ほど滞在しているらしかった。住居は
タキシムの一角で、トルコ人女性とアパートで共同生活しているという。
これまでの二年間は留学生の生活をしていたらしいが、最近半年ほどは
大学の友人の紹介で、通訳や翻訳のアルバイトをしているらしかった。

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