RobbinⅡ-レイン計画- 第ニ章(3)
その翌日、津田は久し振りの自由な時間を、珍しく立川で過ごしてい
た。コトブキヤで大金をはたいて、以前から欲しいと思っていたガレージ
キットを買い、機嫌良く出て来たところだった。
『さーて、WILLの本屋にでも立ち寄ってから、帰るとするかァ』
WILL(ウィル)というのは、JR立川駅に隣接する形で駅ビルと一体化
している、ショッピング街の総称である。ご機嫌な津田は、いつもエスカ
レーターを使う彼にしては珍しく、ガラス張りのエレベーターに乗り込み、
目的の階をエレベーターガールに告げると、見るとは無しに外の景色を
ぼんやりと見ていた。
WILLの駐車場への車の列が、駅前のロータリー付近まで繋がってい
るのが右の方に見えた。すぐ目先の左前には、高島屋がそびえている。
それはいつもと変わらぬ、平凡な日曜の昼下がりの光景だった。
やがてエレベーターはゆっくりと上昇を始めた。「ご利用階数をお知ら
せ下さい………かしこまりました」という、エレベーターガールの小さな
感情の無い声が背後に聞こえる。何気なく駅前のビル群の屋上を見た
津田は、思わず自分の目を疑った。
『あれは?』
とあるビルの屋上に、ぽつんと小さく、人の頭らしきものがあるように
見えた。それだけなら別にどうということは無いのだが、小さな黒っぽい
ものがその頭と同じ位置に見え、さらにそれは津田の方向を向いている
ように見えたからだった。
『銃…まさか。そんな馬鹿なことが』
津田の中に眠っている何かが、彼に身の危険を知らせている。だがこ
れでは身の隠しようが無い。彼はガラス張りのエレベーターの一番端で、
外を向いた格好になっているのだ。まさかとは思いながらも、津田の全
身を冷汗が流れて行く。それに確証がない以上、今こんな狭い空間で
急に騒ぎ出すのはまずいし、だいいち体裁が悪い。当たり前だが、余程
のことが無い限りは、迂闊なことは出来なかった。
エレベーターの上昇速度が余りに遅く感じられ、津田は内心いらいらし
始めた。そんな彼の気持ちを察したかのように、エレベーターは四階で
止まった。ドアが開くと同時に、津田は身を翻し、強引に転がり出るよう
に人波をかき分けて、急いでそのエレベーターを降りた。息遣いが少し
荒くなっていた。
『何だったんだ、あれは』
JR連絡通路のある二階まで降りるか、さもなくば最上階の食堂レスト
ラン街まで行かなければ、手っ取り早く駅前の北側が見える窓はないこ
とを、津田は漠然と思い出した。彼は急いで近くの階段を一気に二階ま
で走り降りると、WILLをいったん出る形をとった。駅ビルを南北に縦断
する形になっている吹き抜けの連絡通路の北側ガラス窓の端に走り寄
ると、もう一度そのビルの屋上を仰ぎ見た。だがそこには何もなかった。
『気のせいだったのか。それとも目の錯覚だった、とでもいうのか』
彼はまるで狐につままれたような気分になった。現実には有り得ない
ことだった。この日本の平凡な日曜の光景の中に、自分を狙撃しようとす
る人間が居るとは、現実問題としてはとても考えられないし、だいいち、
スナイパーに狙われる覚えなど無いのだ。のんびり本屋に立ち寄る気な
ど、いつの間にかとうに失せてしまっていた。
ガラス窓越しに見える人並みの中に、それらしいものを持った人間が居
ないかどうかを探そうとしたが、無駄だった。彼は突然、背後から自分の
名前を呼ばれたのだ。今のことがあっただけに、びっくりして津田は即座
に後ろを振り返った。

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