RobbinⅠ-帝王の花嫁- 第十一章(5)
「何か、私にお役に立てることですか」
「ええ、今さら……というか、ちょっと言い出しにくいんですが、ご気分を害
されるのは承知の上で、少々お伺いしておきたいことがありましたもので」
「ああ、例の件のこと、ですか」
「ええ」
「わかりました。じゃ今日は早目の店じまいにしましょう。なあに滅多に来
る人なんて居やしませんから大丈夫ですよ。すみませんがちょっと待って
ていただけますか」
そう言うと佐々木はつと立ち上がり、出入口のシャッターを閉めに行った。
あの事件は全て片が付いたのだし、今さら終わったことをほじくり返して一
体どうするのかと訝しがられ、嫌な顔をされると思ったのは、津田の考え過
ぎのようだった。シャッターを閉め終わると佐々木は、鍵をポケットにしまい
ながら再び津田の前のソファーに座った。
「お待たせしました。じゃ津田さん、何なりと。しかしこう言っては何ですが、
今さら私にお答え出来るようなことが何か残っていたんですか。私の知って
いることは、何もかも包み隠さず警察の方にあの頃、全て繰り返し申し上げ
たつもりだったんですが。それにもう、あの事件は決着が付いてしまってる
んでしょう」
「……佐々木さん」
津田は伏せ目加減にそう言うと、ポケットからショートピースの蒼い箱を取
り出した。一本を口にくわえ、ライターを取り出そうとポケットをまさぐった。し
かしなかなか見つかりそうもない様子を見かね、間髪を入れず津田の目の
前に、佐々木の右手が火のともったライターを差し出した。
「あ、これはどうも」
津田は煙草に火をつけると、軽く煙を吐き出した。そして次の瞬間、津田
は大声を上げて笑いだした。しばらくそれを呆然と見ていた佐々木だったが、
やがて
「はて。何がそんなにおかしいんですか、津田さん」
と、さすがに津田の高笑いにムッとしながら聞いた。津田は笑いながら答
えた。
「いや、はは、これは失礼。こうもうまくいくとは思わなかったもので。いや、
すみませんでした。おかげで納得出来ました。どうも有難うございました。わ
ざわざ出かけて来た甲斐が有りましたよ」
「うまくいった、ですって。一体、何のことですか」
「巽明代を、どこへやりました」
「明代を?いきなりどういうことですか。明代は刑務所で服役中のはずじゃな
いんですか。それを、どこへやった、っていう言い方はないでしょう、津田さん。
失礼だが何か勘違いされているようだ」
「おや、そうでしたか。私はてっきり、彼女は出所後に、いの一番にここへ飛
んで来たと思ってたんですがねえ」
津田は微笑しながら、吸っていた煙草を灰皿で荒々しくもみ消した。黙って
佐々木の顔をしばらくの間見つめていたが、さらに彼は新しい煙草を一本抜
き取ると口にくわえ、手で佐々木に先程のライターを貸してくれという動作を
した。佐々木は津田に先ほどのライターを手渡すと、
「そうですか、彼女は出所したんですか。それは全然知らなかった。確かに
私は彼女の手練手管に騙されて、会社の秘密をついうっかりと喋ってしまっ
たドジな男だが、私は別に彼女を恨んではいない。いつかは私だって退任す
る日が来る。それが少しばかり早かっただけだ。そういう運命にあるんだった
ら仕方ないと思ったら、不思議と彼女を憎いと思う気持ちは起きなかった。そ
れを津田さん、貴方は私と彼女がまるで共犯のようにおっしゃる。冗談も程々
にして下さい。貴方だからこうして我慢してるが、普通だったらとうにお引き取
り願ってるところだ」
と、珍しく語気を荒だてて、佐々木は津田に言った。佐々木のライターをしば
らくあちこち眺めていた津田は、やがて大きく溜息をつくと佐々木の顔を正面
から見つめながら言った。
「佐々木さん、申し訳ないが、証拠はあるんですよ」

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