RobbinⅡ-レイン計画- 第五章(5)
「私自身のこともあるから。へたにトルコ語が喋れるぶん、私自身のこと
を色々詮索される羽目になるだろうし、私のプライベートの領域まで踏み
込まれるのは好きじゃないから」
「なるほどね、そういうことか」
「はい。すみませんけど」
「わかった。じゃ、話を戻そう。この下の階の人は、事件があった時に住
んでた人と一緒かどうか、聞いてもらえるかな」
「……同じだそうです。このアパートの住人で、事件後に移って行った人
は誰もいないし、この階に川田さんが入居した以外に、ここ数年変化は
無いそうです」
「じゃ、川田さんが入居する前は、ここには誰が住んでたの」
「……数年前にやはり日本人が一度入居したことはあるみたいですが、
それだけで、後はここの大家がずっと住んでたようです」
「ここの大家とは、連絡を取って会おうと思えばいつでも会えるのかな」
「……大丈夫だと言ってます。何なら自分が今から連絡してあげてもい
い、と」
「大家は何処に住んでるって」
「……ギョズテペ、比較的近くですね。もともと外国人向けのアパートが
有るわけじゃないので、本来そのアパートのワンフロアを購入して住ん
でるトルコ人の持ち主が、不動産屋なんかに依頼して入居希望者を探
してもらう場合が多いんです。外国人だとかなり高く吹っ掛けられますし、
大体はほとんど仕事で来てますから、多少値段が高くても払ってもらえ
るので高収入になりますしね。その間、持ち主のトルコ人はまた別の、
安いっていうかトルコの普通の値段のアパートに賃貸で入居して、利鞘
を稼いでるってわけです。そのアパート全体のオーナーが居て、居住者
全員が賃貸のみって場合もありますけどね。でも私に言わせれば、そ
の場合だって外国人相手の値段は、トルコ人に比べてとんでもない値
段が付いてますよ。もっとも、それが相場だって言われると、どうしよう
もありませんけど」
「ところで、このあたりは夜寝る時、窓を開けっ放しで寝ても大丈夫なの」
「……この辺の階なら大丈夫だろうが、普通は三階ぐらいまでは泥棒の
心配もあるので閉めていることが多いみたいだ、と。一階は何処でもだ
いたい、窓やドアに鉄格子がはまっています」
「このアパートで今まで、コソ泥の類の被害にあったことは」
「……全く無かった、と言ってます。今回の川田さんの件で、自分も立場
が怪しくなりかかった、と」
「カプジュとしての、本来のアパート管理業務の遂行能力に疑問を持た
れたわけか。犯人が入る時も出て行く時も、全くその姿を見て無いんだ
からなあ。責められても無理ないか」
津田はせめて死亡推定時刻さえ判れば、と悔やんだ。今の状況では
あまりにも漠然とし過ぎて、犯人像が全く特定出来ないのだ。川田が
言っていたように、犯人が川田良子の顔見知りなのか、一元の強盗に
過ぎないのか、すらも定かでない。
「弘美ちゃん、ところでこの国は電話料金の支払いはどうなってる」
「毎月請求書が来て、郵便局で期限までに現金で支払うようになって
ます。期限までならイスタンブールの何処の郵便局でも支払えますが、
期限を過ぎると特定の郵便局でしか受け付けません。ここだったら、エ
レンキョイかボスタンジュになると思いますが」
「その請求書は、郵送か」
「ええ。名義人宛ての金額丸見えの、日本の郵便振込の用紙を小型
にしたようなものですよ」
「ということは、カプジュが郵便物と一緒にここに持って来てたわけだな。
金額もチラッとは見たこともあるだろうが、いつも異常に高かったとか、
そんな記憶は」
「……別に。時々国際電話をしてるようで、結構高額な時も有ったが、
外国人だからとそんなに気にはしてなかった、と」
「そうか、国際電話をすれば国内通話分なんてたかが知れてるから、
消されちまうな。この国は日本の通話明細みたいなものは発行して
るの」
「さあ、見たことありません。コンピューター管理されてるように見えて
ますが、実際は怪しいと思います。最近私のところの電話料金がえら
くバラついて請求されるんで、いつからいつまでの通話料金は幾らに
なってるのかの明細を聞きに行ったことがあるんですけど、判らない
らしくて、何やかや言って結局教えてくれませんでしたから」
「そうだ、翔くん、川田さんの息子さんなんだが、普段どんな様子だっ
たかわかるかな」
「……結構、近所やこのアパートの住人の子供達と、下で仲良く遊ん
でたようです。明るくて人見知りしない子供だったと」
それから津田と杉本弘美は二、三質問した後、屋上を見てから、カ
プジュにその下の階の住人に引き合わせてもらった。だが幸い在宅
だったその住人に質問しても、当時のことはあまり覚えていない様子
で、特にこれと言った新しい手掛かりは何も得られなかった。
また来るかも知れないからその時はよろしくと言い残し、二人はその
アパートを後にしてバーダット通りに出た。時刻はすでに昼の一時を少
しまわっている。

最近のコメント